タイトル厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「Menkes 病・occipital horn 症候群の実態調査、早期診断基準確立、治療法開発に関する研究」平成23-24年度 総合研究報告書

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厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「Menkes 病・occipital horn 症候群の実態調査、早期診断基準確立、治療法開発に関する研究」平成23-24年度 総合研究報告書

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厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「Menkes 病・occipital horn 症候群の実態調査、早期診断基準確立、治療法開発に関する研究」平成23-24年度 総合研究報告書

充を開始することにより、神経細胞に銅が輸送され、銅酵素の活性が改善し、中枢神経障害の予防あるいは軽症化を図ることができる40-42)。しかしながら、その効果は様々であり、中枢神経障害を全く認めない症例から、ほとんど効果を認めなかった症例まで存在する。早期治療の効果の程度は、遺伝子型およびATP7Aの残存活性によると考えられる43,44)。一方、血管の蛇行や膀胱憩室などの結合織異常は、生後早期より銅補充療法を行っても改善しない45)。結合織の架橋に関与するlysyl oxydaseはGolgi体で銅と結合し活性を得るが、非経口銅補充療法を行っても、ATP7A欠損のためにGolgi体内の銅欠乏が改善されず、lysyl oxydase活性は低下したままであるためと考えられる46)。・神経症状発症後の治療生後2か月を過ぎ、神経症状発症後に非経口銅補充療法を開始した場合、毛髪所見(kinky hair)は改善するが、中枢神経症状は改善しないとされる47)。この原因として、血液脳関門成熟後に銅補充療法を行っても、神経細胞に銅が輸送されないことや、神経細胞の不可逆的変化が起こっていることが考えられている6-8)。しかし、2か月以降に非経口銅補充療法を開始し、筋緊張や易刺激性が若干改善した例も報告されている48)。残存酵素活性の程度により、治療効果に差が見られると考えられる。2)ジスルフィラム併用療法1990年、Tanakaら49)はメンケス病モデルマウスであるmacular mouseに対して塩化銅とともに油性キレート剤であるDEDTC(Diethyl)を投与したところ、脳内銅濃度が上昇したことを報告した。現在抗酒癖薬として使用されるジスルフィラム(ノックビン)は、DEDTCの二量体であり体内でDEDTCに分解されることから、DEDTCと同様の効果50)を示すことが期待され、動物実験では脳内銅濃度の上昇や、銅酵素活性の増加が示されている51)。ヒトでも、ヒスチヂン銅では効果のみられない神経症状や銅酵素欠乏による結合織障害への改善を期待して、これまでにヒスチヂン銅にジスルフィラムを併用した症例の報告がみられ52)。現時点では明らかな有効性が示されてはいないものの、症状の改善がみられた例もあり、投与量・投与法・投与時期などの検討が必要である。VII.予後メンケス病におけるATP7Aの異常は胎盤における銅の転送にも影響するため、その異常はすでに胎児期より始まっている。このため治療は新生児期又は可能であれば胎児期より開始されると効果が良いとされている34,39,40,45)。銅は中枢神経系の発達の初期段階で重要であるため、予後は治療の開始時期に依存する。出生後できるだけ早期に銅の投与を開始すると予後は著しく改善し、特に早期産の患児でその効果は顕著である。しかし、生後2ヵ月を超えると血液脳関門により非経口的に投与された銅(ヒスチジン銅でも)が脳に移行しないため、寝たきりで難治性痙攣や骨粗鬆症による骨折、硬膜下出血や膀胱憩室などを発症し、誤飲による呼吸不全や感染症で幼児期に死亡する事が多い4,5,47)。57