病因・病態
本症は銅輸送ATPase (ATP7A) 遺伝子異常症で、銅欠乏により重篤な中枢神経障害、結合織障害をきたすX染色体劣性遺伝性疾患である。正常では、ATP7Aは肝細胞以外の細胞のゴルジ体膜に存在し、サイトソルからゴルジ体への銅輸送および銅の細胞外分泌を司っている。本症患者では経口摂取した銅は腸管に蓄積し体内に分泌されず、重篤な銅欠乏になる。さらに脳血液関門にも銅が蓄積し、血液から神経細胞への銅輸送が障害され、神経細胞はさらに重篤な銅欠乏になる。銅欠乏により銅酵素(チトクロームCオキシダーゼ、リシルオキシダーゼ、ドーパミンβヒドロキシダーゼなど)の活性が低下し、様々な障害をきたす。
症状
頭髪が特徴的で、縮れ毛、赤毛で、新生児期から見られることが多い。低体温エピソードも特徴的であるが一般に見逃されている。胎児期の銅蓄積量が徐々に減少し、生後3カ月頃より重篤な銅欠乏症状が出現する。すなわち、低体温、痙攣、発達遅延、体重増加不良、硬膜下出血などで発症する。痙攣は難治性で、退行現象をきたし、全くの寝たきり状態になる。骨粗鬆症が進行し、骨折を起こしやすい。結合織異常による血管壁障害で、血管蛇行や頭蓋内・内臓出血でしばしば致命的になる。巨大膀胱憩室が発症し、憩室破裂により致命的になる場合もある。
─症状─
頭髪異常(縮れ毛、赤毛、脱毛)、低体温、
生後3か月頃から発達遅延、痙攣、硬膜下出血、
筋力低下、膀胱憩室、血管蛇行、骨粗鬆症
頭髪異常(縮れ毛、赤毛、脱毛)、低体温、
生後3か月頃から発達遅延、痙攣、硬膜下出血、
筋力低下、膀胱憩室、血管蛇行、骨粗鬆症
治療法
現在、ヒスチジン銅による皮下注射が行われているが、治療開始が生後3か月以降の神経症状が発症してからでは、神経障害に対して全く効果がない。しかし、脳血液関門の病態が未熟な新生児期に銅の皮下注射を開始すれば神経障害は予防できるとされており、発症前の早期診断法が待たれている。しかし結合織異常はヒスチジン銅皮下注射でも予防・改善できない。新規治療法の開発が切望されている。
特徴的な頭髪 | 著明な筋力低下 |
Menkes kinky hair | |
Copyright © 2012 Hiroko KODAMA. All Rights Reserved.