副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患
II.先天性副腎低形成症
病因
副腎の発生・分化に関わる転写因子(DAX-1あるいはSF-1)の異常により副腎欠損を呈するものや、DAX-1遺伝子を含む大きな遺伝子欠失のために近傍のデユシャンヌ型筋ジストロフィー遺伝子やグリセロールキナーゼの欠損を伴う隣接遺伝子症候群によるものが主な原因としてある。その他 ACTH受容体遺伝子異常、MRAP異常、さらにはALADIN遺伝子欠損によるTriple症候群(Allgrove症候群;ACTH不応症、無涙症とアカラシアを合併する)による副腎皮質低形成もみられる。その他原因不明なものとしてIMAge症候群(子宮内発育不全、骨幹端異形成、停留精巣・小陰茎などの外陰部異常、副腎低形成)がある。続発性のものとして下垂体の発生に関与する遺伝子欠損(PROP1, HESX1, LHX4, TPIT, GLI2など)やACTH合成異常によるものがある。
疫学
DAX-1異常による先天性副腎低形成症は、約12.500出生に一人とされている。
症状
・X連鎖性(DAX-1異常症): 嘔吐、哺乳不良、色素沈着、低血圧、ショック症状などで発症する。発症時期は主に新生児期~乳幼児期であるが、成人になってから発症する例がある。思春期年齢になっても二次性徴の発達がみられない(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を合併する)。また精巣での精子形成は障害される。
・常染色体性(SF-1異常症) 副腎不全を呈する例は稀で、主に性腺形成不全による症状、XY女性と二次性徴発達不全を呈する。
・IMAge症候群 子宮内発育不全、骨幹端異形成症、外性器異常(小陰茎、停留精巣)と副腎低形成を合併する。
・ACTH不応症 グルココルチコイド、副腎アンドロゲンの分泌不全による症状がみられる。多くは新生児期に発症する。嘔吐、哺乳不良、皮膚色素沈着がみられる。また新生児黄疸が重症・遷延化することもある。低血糖がみられる。なかに高身長を呈する患者もいる。
・Triple A症候群(Allgrove症候群) ACTH不応症に無涙症(alacrima)とアカラシア (achalasia)を伴う。精神運動発達遅滞、構音障害、筋力低下、運動失調、自律神経障害などがみられる。
診断基準
先天性副腎低形成症診断の手引き |
A. DAX-1異常症(X連鎖性) |
I. 臨床症状 |
1.副腎不全症状:発症時期は新生児期から成人期までさまざまである |
哺乳力低下、体重増加不良、嘔吐、脱水、意識障害、ショックなど。 |
2.皮膚色素沈着 |
全身のび慢性の色素沈着。 |
3.低ゴナドトロピン性性腺機能不全 |
停留精巣、ミクロペニス、二次性徴発達不全(年長児)(注1) |
4.精子形成障害 |
II. 検査所見 |
1.全ての副腎皮質ホルモンの低下 |
(1) 血中コルチゾールの低値 |
(2) 血中アルドステロンの低値; |
(3) 血中副腎性アンドロゲンの低値 |
(4) 尿中17-OHCS/コルチゾール, 17-KSの低値 |
(5) ACTH負荷試験で全ての副腎皮質ホルモンの分泌低下 |
(6) 尿中ステロイドプロフィルにおいて、ステロイド代謝物の全般的低下、特に新生児期の胎生皮質ステロイド異常低値(注2) |
2.血中ACTH、PRAの高値 |
3.血中ゴナドトロピン低値 |
4.画像診断による副腎低形成の証明 |
III. 遺伝子診断 |
DAX-1(NR0B1)遺伝子の異常 |
IV. 除外項目 |
・SF-1異常症 |
・ACTH不応症(コルチゾール低値、アルドステロン正常) |
・先天性リポイド過形成症 |
V. 副腎病理所見 |
永久副腎皮質の形成障害と、空胞形成を伴う巨大細胞で形成された胎児副腎皮質の残存とを特徴とするcytomegalic formを示す。 |
VI. 参考所見 |
Duchene型筋ジストロフィ症に先天性副腎低形成症を合併することがある。 精神発達遅滞、成長障害、glycerol kinase欠損症を伴うDAX-1遺伝子欠失による。 |
(注1)例外的にゴナドトロピン非依存性の思春期早発症を来した症例の報告がある。 |
(注2)国内ではガスクロマトグラフ質量分析ー選択的イオンモニタリング法による尿ステロイドプロフィル(保険未収載)が可能であり、診断に有用である。(ただし本検査のみで先天性副腎低形成症と先天性リポイド過形成との鑑別は不可) |
[診断基準] |
確実例:I, II, IIIおよびIVを満たすもの ほぼ確実例:I, IIおよびIVを満たすもの 疑い例:I, IVおよびIIの一部を満たすもの |
分子診断
治療
急性副腎不全の発症時には、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの速やかな補充と、水分・塩分・糖分の補給が必要であり、治療が遅れれば生命にかかわる。その後も生涯にわたりグルココルチコイドとミネラルコルチコイドの補充が必要である。新生児期・乳児期には食塩の補充も必要となる。治療が軌道に乗った後も、発熱などのストレスにさらされた際には副腎不全を起こして重篤な状態に陥ることがあるため、ストレス時にはグルココルチコイドの内服量を通常の2~3倍服用する。適切な治療が行われれば予後は比較的良好である。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対しては、hCG-HMG療法あるいはテストステロン療法が必要となる。これらの治療により二次性徴は順調に進行するが、精子形成能を獲得することは困難である。