副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患
5. 17α-水酸化酵素欠損症
ステロイド合成酵素のP450cl7の先天的な障害により,ミネラルコルチコイド過剰による高血圧と性ステロイドの欠乏による性腺機能不全をきたす遺伝性疾患である。
疫学
症例報告数としては世界中で約120余例を認める。先天性副腎過形成の中で占める頻度は我が国で2.6%と報告されている。
病因
ステロイド合成酵素のP450cl7の先天的な障害による。常染色体性劣 性遺伝性疾患であり,原因酵素遺伝子のCYPl7は第10染色体に存在し,本症患者において種々の遺伝子変異が同定されている。P450c17の障害により,コルチゾールの分泌低下をきたし,ACTH の過剰分泌が起こる結果,ミネラルコルチコイドのデオキシコルチコス テロン(DOC)や,コルチコステロン(B)の過剰産生をきたし,高血圧をひき起こす。また性ステロイドの低下により,男性では,男性仮性半陰陽が,女性では,原発性無月経を始めとする二次性徴の障害をきたす。
症状
1.主症状
(1)高血圧
DOCやBの過剰産生による。若年性高血圧として発見されることが多いが,稀に認められない場合がある。 (2)性腺機能低下症
男性の典型例においては,出生前のテストステロンの欠乏のため に外陰部の女性化をきたし,腟は盲端に終わる(男性仮性半陰陽) が,P450c17の部分欠損症では中間性のあいまいな外陰部を呈することもある。一方,女性患者ではエストロゲンの欠乏のために原発 性無月経,乳房発育不全などの二次性徴の欠落をきたす。P450c17 の部分欠損症では生理を認める症例が存在する。また,男女とも,性毛(腋毛,恥毛)の欠如を認める。
2.副症状
筋カ低下,ミネラルコルチコイド過剰による低K血症に伴い,認められることがある。
診断
17α-水酸化酵素欠損症診断の手引き |
臨床症状 |
主症状 |
1. 高血圧 |
DOCやBの過剰産生による若年性高血圧(注1) |
2. 性腺機能低下症(注2) |
外陰部は女性型。原発性無月経,乳房発育不全などの二次性徴の欠落。 男女とも性毛(腋毛、恥毛)の欠如。 |
副症状 |
ミネラルコルチコイド過剰による低K血症に伴い、筋力低下を認めることがある。 |
参考検査所見 |
1.PRA低値、血漿ACTH高値ではない |
2.血清DOC、コルチコステロン(B)の基礎値、ACTH負荷後のこれらの高値 |
3.血清テストステロン、エストロゲンの低値 |
4.尿中17-OHCS、17KSの低値 |
5.尿ステロイドプロフィルにおけるprogesterone、DOC、corticosterone代謝物の高値(注3) |
染色体検査 |
遺伝子診断 |
P450c17遺伝子(CYP17)の異常 |
除外項目 |
・21-水酸化酵素欠損症 |
・11β-水酸化酵素欠損症 |
・POR欠損症 |
(注1) まれに高血圧の認められない症例が存在する。 |
(注2) 軽症46, XY症例で外性器の男性化を認める症例もある。軽症46, XX症例では月経を認める症例もある。 |
(注3) 国内ではガスクロマトグラフ質量分析−選択的イオンモニタリング法による尿ステロイドプロフィル(保険未収載)が可能であり、診断に有用である。 |
<診断基準> |
除外項目を除外した上で、 ・主症状を認める場合は各種検査を参考にして診断する。 ・主症状のうち1, 3を認める場合は副症状、各種検査を参考にして診断する。 |
治療
高血圧に対しては,ACTHの分泌亢進を抑制し,ミネラルコルチコイドの過剰分泌を抑制する目的で,デキサメタゾン又はヒドロコルチゾンなどの合成糖質コルチコイドの投与を行う。男性患者の外陰部の女性化については社会的性の尊重を基本とし,中間性の外陰部については必要に応じて形成外科的手術を行う。