副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患
V. グルココルチコイド抵抗症
本疾患は、ステロイドホルモン受容体異常症の一つで、生理的濃度のコルチゾールに対し、完全あるいは不完全な臓器応答性の低下を示す家族性あるいは散発性に認められる疾患である。しかし、慢性的な高コルチゾール血症を呈するにもかかわらず、満月様願貌、中心性肥満、buffalo hump、 皮膚線条などのクッシング症候群に特徴的な徴候を欠く。またコルチゾールの生合成、分泌には異常がない病態である。
疫学
グルココルチコイドの作用は生命維持に不可欠であるため、もし重症型のこの病気が胎児に存在すると、出生前後でほとんどの場合死亡しているものと考えられ、正確な発症頻度は不明である。比較的軽症型の場合にのみ発育が可能と思われる。しかし、この場合も極めて稀な病態であり、現在までに世界中で6家系、8散発例が報告されているのみである。家族性発症例では常染色体優性遺伝形式をとる。
病因
グルココルチコイド受容体はホルモン依存性の転写調節因子である。 この受容体遺伝子に生じた変異のために、受容体に対するホルモン親和性の低下、熱不安定性、DNA結合能の低下、受容体数の減少など受容 体蛋白の質的、量的異常が生じ、その機能が障害されることが主因である。現在までに6家系、8孤発例で明らかにされているグルココルチコイド受容体遺伝子の変異は、点突然変異あるいは3ないし4 塩基対の短い欠失である。しかしながら、明らかな変異を見いだせない 症例も存在することから、グルココルチコイド受容体遺伝子の変異だけがこの病態の原因とすることは困難である。この受容体の作用機構にかかわるその他の因子の異常も、本症において今後明らかにされる可能性がある。
症状
慢性的に高コルチゾール血症が存在するにもかかわらず、クッシング 症候群にみられる特徴的な徴候を呈さない。血漿ACTH値は正常〜高値であり、日内変動、ストレス応答性は保たれている。デキサメサゾン抑制性はみられない。ACTH過剰による副腎アンドロゲン過剰の過剰が起こり、女児では外性器形成異常、思春期早発症、ニキビ、不妊、男性型脱毛、生理不順、男児ではAdrenal rest tumor、乏精子症が生じる。また、ミネラルコルチコイド作用の過剰に基づく代謝性アルカローシス、低カリウム性高血圧や低カリウム血症、などをみる場合もある。臨床症状は、ほとんど無症状から重度の症例まで様々である。
診断
原発性コルチゾール抵抗症の診断基準 |
1) Cushing症候群の特異的な症状に乏しいか、全くこれを欠いている |
重症例では、高血圧、低カリウム血症、座倉、多毛、月経不順をみる |
2) 内分泌学的にCushing病に一致する成績を示す |
a) 高コリチゾール血症、高ACTH血症 b) 血中および尿中遊離コルチゾールの増加 c) 血中コルチゾール結合蛋白質は正常 d) 血中コルチゾールは少量のデキサメサゾンで抑制されず、大量のデキサメサゾン(4か8mg)で抑制される |
3) 単核白血球、繊維芽細胞のグルココルチコイド受容体異常の証明 |
a) 結合親和性の低下 b) 熱不安定受容体 c) DNA結合の低下(活性化機構の異常) d) 受容体数の減少 e) 繊維芽細胞におけるデキサメサゾンによるアロマターゼ活性誘導の低下 f) デキサメサゾンによるチミジン取り込み抑制の欠如 |
4) 家族内発症、散発性発症 |
5) 他のステロイドホルモンに対する抵抗性(複合ステロイドホルモン抵抗性の部分症)の有無 |
a) アルドステロン抵抗性(アルドステロン低値にもかかわらず、電解質異常がない) b) アンドロゲン抵抗性(アンドロゲン高値にもかかわらず、男性化を認めない) |
6) 鑑別診断 |
a) Cushing病 b) 異所性CRF, ACTH産生腫瘍 |
治療
ACTH過剰分泌を抑制し、ミネラルコルチコイド、副腎アンドロゲンの過剰を抑制することを目的とする。ミネラルコルチコイド作用を有しないデキサメタゾンの高用量(1-3mg/日など)の補充を行う。無症状で正常血圧など症状のない場合には特に治療は行わない。一般に予後は良好と考えられるが、現時点において本症の長期予後に関する報告はない。