副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患
2. 偽性低アルドステロン症 II 型
本症は1970年Gordonらによって記載された病態で、常染色体優性遺伝形式を示し高血圧、高カリウム血症、代謝性アシドーシスを呈するが、腎機能は正常で、サイアザイド利尿薬で症状が軽減する特徴を有する。血中アルドステロン値は正常から低値を示す。病因の一部としてセリンースレオニンキナーゼであるWNK1あるいはWNK4の異常が同定されている。高K血症,高血圧、高Cl血症性代謝性アシドーシス を特徴とし塩類喪失を伴わない疾患である。1970年にGordonらが記載したことからGordon症候群ともいう。多くは家族内発症がみられ、常染色体優性遺伝形式を示す遺伝性尿細管疾患である。
疫学
世界で約50例,本邦では散発1例,家族発症1家系の報告があり,稀な疾患である。本症の発症年齢は小児から成人までと幅広く,PHAIが乳時期発症であることと対照的である。男女比は男:女≒2:1である。
病因
遺伝子変異部位により、2A(1q31-42), 2B(17q21-22), 2C(12p13)の3亜型に分類される。セリン/スレオニンプロテインキナーゼファミリーのWNKのうち2B型ではWNK4の、2C型ではWNK1の遺伝子異常が同定されている。2B型ではWNK4の異常により、サイアザイド感受性Na/Cl共輸送体(NCCT)の発現亢進によりCl-再吸収の亢進とK+, H+の尿細管腔への排泄障害をきたし、カリウムチャネル(ROMK)の発現抑制により高K血症をきたす。一方2C型ではWNK1の発現亢進によりWNK4のNCCT抑制が阻害され、NCCTの発現が亢進すると言われている。2A型の責任遺伝子は不明である。
本症では糸球濾過率に異常はなく,本症に特徴的な高K血症は,高血圧(循環血液量増大)をもたらす他のイオンの尿細管における一次的な輸送障害に引き続く二次的結果である。更に,体液量増大によりPG (PGE2)産生が低下し,Na利尿を減少させる。本症において循環血液量増大をきたす一次的な尿細管機能異常は単一ではなく(1)遠位尿細管におけるC1イオンに特異的な再吸収亢進,(2)近位尿細管におけるNa 再吸収の亢進,の主として2つの病因があるが,(1)で説明できる例が多い。すなわち,C1‐の再吸収亢進は遠位尿細管におけるK+,H+分泌の駆動カとなる管腔内の電位を低下させ,結果として高K血症,高C1血 性代謝性アシドーシスをきたす。したがって,NaCl負荷ではK利尿は 起こらないが,C1-以外のNa2SO4やNaHCO3負荷でK利尿が起こる。C1‐の再吸収はNa+再吸収を伴うので循環血液量増大とレニン・アンギ オテンシン系の抑制をきたす。本症はC1再吸収を抑制する目的で食塩制限を行うと病態が改善する。また,サイアザイドが著効することから,最近遺伝子構造が決定された遠位尿細管に存在するサイアザ イド感受性Na,C1共輸送体thiazide‐sensitive Na‐Cl cotransporter の機能亢進異常が推定される。
症状
高カリウム血症、高クロール性代謝性アシドーシス、低レニン性高血圧症が主要な所見である。しかし、血中アルドステロンは抑制と刺激の2つの調節機構のため軽度低下から軽度上昇まで様々である。血漿レニン活性は低いが刺激試験には反応する。尿中ナトリウム排泄増加はなく、腎糸球体機能、副腎機能も正常である。本症では,高血圧のほか,アシドーシス,高K血症のため低身長,歯や骨の奇形,精神発達遅延,筋カ低下,周期性四肢麻痺を呈することがある。
治療・予後
厳重な食塩制限を行った上で,サイアザイド系利尿薬を使用する。重症の高K血症に対してはイオン交換樹脂を使用する。アシドーシスは成長障害をきたすので,年少者にはアルカリ療法を行う。サイアザイド系利尿薬はクロール再吸収を抑制し、クロールおよびナトリウムの尿中排泄を促進し、体液量、高血圧は正常化し、その結果遠位尿細管でのカリウムと水素イオンの排泄が増加し高カリウム血、アシドーシスを改善させる。食塩制限とサイアザイド系利尿薬の投与を行っていれば予後は比較的良好である。