副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患
7.P450 Oxidoreductase 欠損症
P450 oxidoreductase(POR)は膜結合型 flavoprotein であり、マイクロゾームに存在するすべてのP450酵素群に電子伝達を行う酵素である。この異常によりマイクロゾームに存在する21-水酸化酵素と17α-水酸化酵素の複合欠損、さらには胎盤のP450arom(アロマターゼ)活性低下を伴うこともある。またコレステロールの合成にもP450が関与するため、細胞内コレステロールの減少により、様々な骨奇形を合併すると考えられている。以前より頭蓋骨早期癒合症などの多発奇形をともなうAntley-Bixler症候群のなかにはステロイドの産生異常を有する症例が報告されていた。このような症例はPORの異常による。
疫学
正確な頻度は不明であるが、世界で40例以上、本邦では20例以上の報告を認める。
病因
PORは膜結合型 flavoproteinでNADPHから二つの電子を受け取り、P450に移行させ,触媒反応を進行させる。その構造はFMN結合領域,Hinge領域、FAD結合領域、NADPH結合領域よりなる。PORは全てのマイクロゾーム型のP450に必要であることから、その異常は致死的と想像されていた。しかしその異常(ミスセンス変異、フレームシフト変異、スプライシング変異)によってヒトの疾患が存在することが明らかになった。日本人には特にエクソン11のR457Hのミスセンス変異が多い。
症状
PORの障害程度によって様々な症状を呈する。胎盤におけるP450arom活性の低下のため、アンドロゲン過剰に陥り母親の妊娠中期からの男性化がおこる。また女児においてはこのアンドロゲン過剰により陰核肥大、陰唇の癒合などの外陰部の男性化が起こる。逆に男児の場合は17-水酸化酵素の活性低下のため、完全な男性型の外性器を形成するに十分なアンドロゲンが産生されず、小陰茎、尿道下裂、停留睾丸になる。21-水酸化酵素の活性低下により、新生児マススクリーニングにて血清17-hydroxyprogesterone(17-OHP)の高値が指摘される。さらに一部の症例では21-水酸化酵素の活性低下により、コルチゾールの分泌不全がおこり、副腎不全に陥ることも報告されている。17-水酸化酵素の活性低下、アロマターゼーの活性低下はエストロゲン欠乏を起こし、女性患者での原発性無月経、乳房発育不全など二次性徴の欠落をきたす。また男児においても17-水酸化酵素の活性低下のためテストステロンが産生されず、二次性徴の進行は起こらないことが多い。骨の合併症として頭蓋骨癒合症、顔面低形成、橈骨上腕骨癒合症、大腿骨の彎曲、関節拘縮、くも状指などがある。このような骨合併症をほとんど認めない症例も報告されている。
診断
P450オキシドレダクターゼ(POR)欠損症診断の手引き |
臨床症状 |
主症状 |
1. 外性器異常 |
女児における陰核肥大、陰唇の癒合などの外陰部の男性化。 男児における小陰茎、尿道下裂、停留精巣などの不完全な男性化。 |
2. 骨症状(注1) |
頭蓋骨癒合症、顔面低形成、大腿骨の彎曲。関節拘縮、くも状指。 |
副症状 |
1. 二次性徴の欠如、原発性無月経 |
2. 母体の妊娠中期からの男性化と児出生後の改善 |
3. 副腎不全 |
検査所見 |
血清17-OHPの高値(注2) |
参考検査所見 |
1.ACTH負荷試験:CYP21とCYP17酵素活性の複合欠損の生化学診断(注3) ACTH負荷試験後のプロゲステロン、17-OH pregnenolone、17-OH progesterone、deoxycorticosterone、corticosteroneの上昇 。 dehydroepiandrosterone (DHEA)、androstenedione(Δ4A)の上昇は認めない。 |
2.尿中ステロイドプロフィルによるCYP21とCYP17酵素活性の複合欠損の生化学診断(注4)。新生児期~乳児期早期:尿中Pregnanetriolone (Ptl) 高値、および11-hydroxyandorosterone(11-OHAn)/Pregnanediol (PD)低値。乳児期後期以降:pregnenolone・progesterone・DOC・corticosterone・17OHP・21-deoxycortisol代謝物高値。 |
3.特徴的骨レントゲン所見 (橈骨上腕骨癒合症、大腿骨彎曲など) |
染色体検査 |
遺伝子診断 |
POR遺伝子の異常 |
除外項目 |
・21-水酸化酵素欠損症 |
・17α-水酸化酵素欠損症 |
・3β水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症 |
・アロマターゼ欠損症 |
(注1) まれに骨奇形が軽度、あるいは認めない症例が存在する。その場合は内分泌検査や遺伝子診断を行い診断する。 |
(注2) 新生児期においては正常上限付近のことが多い。 |
(注3) CYP21とCYP17活性の低下を証明する必要がある。いくつかの検査項目は保険収載されていないが、一部の民間検査機関で測定可能である。ただし生後6ヶ月までは、免役化学的測定-直接法による血中ステロイドホルモン測定は胎生皮質ステロイドの影響を受け、生化学診断は必ずしも有用ではない。 |
(注4) 国内ではガスクロマトグラフ質量分析−選択的イオンモニタリング法による尿ステロイドプロフィル(保険未収載)が可能であり、診断に有用である。 |
<診断基準> |
除外項目を除外した上で、 ・主症状をすべて認め、血清17-OHPが上昇している場合は診断可能。 ・骨症状および特徴的骨レントゲン所見を認めない場合は検査所見、参考所見を検討し診断する。 ・グルココルチコイドの補充方法、量については各症例によって異なる。突然死の報告もあるので、ストレス時のグルココルチコイドの補充について症例毎に必要性を検討すべきである。 |
治療
女性、ならびに男性患者の外陰部の異常については形成外科的手術を行う。グルココルチコイドの補充方法、量については各症例によって異なると考えられる。突然死の報告もあるので、ストレス時のグルココルチコイドの補充は徹底すべきである。